今月の詩。
けのび/ハマモトソウタ
思い切り蹴り飛ばした
足裏の
鈍い痛みを残しながら
指先で囁き始めて
脇の下をくすぐり
紺色のポリエステルに弾かれた
哀れなあぶくたちが
壁にとろけてまた黙りこくる
のを見送ると、
子供たちの
かえる泳ぎとか
いるか泳ぎとか
で
水を打つ音が
ぶぅるくしゃあああ
と聞こえてきて
少し遅れて
日様と出会った水玉が
あゝうつくしい
と恍惚な声で
うたっては
また水の中へと
かえってくる
ゴーグルの内から
もくもくと
青い太線がへその中へと
吸い込まれていくのを
眺めていると
ハイウェイをアンニュイな顔で走る
うぇいぶぱぁまの人気俳優の気分に
なる
プールの底では
たくさんのスターチスが
金魚鉢の魚みたいに
ぱくぱくと口を開いてゆき
こちらに息吹を送るので
こちらも少し口を開けば
ぶぅっくぅ
と大きな輪っかが
西の方へと
流れて消える
肺に水が満ちていくのを感じながら
脱力した身体の影に
日様の中で暮らしている鯨が
そっと影を重ねて
プールサイドで耳の水抜きをしている
少し気になっていた
あの子とか
兄が嫌っていた
太った女の先生とか
ただ静かに
見送っていくのだろうか
